最優秀賞
保全と開発のはざまで

琉球大学観光産業科学部3年 伊波 紗友里


 「沖縄にカジノ施設を造ろう!」「大型リゾートホテルを建設しよう!」。こうした主張を以前の私なら一緒になって唱えただろう。年間多くの観光客がこの南国の島・沖縄を訪れる。そしてこの島に魅了された人々が、その後も何度も沖縄に足を運び、沖縄観光を支えるリピーターとなるのである。実際沖縄を訪れる観光客の約7割がリピーターという統計が出ている。しかし私はこのことを誇りに感じながらも、焦りを感じていた。なぜならリピーター層を抱えるということは、従来の沖縄観光だけではなく多様なニーズに応えなければならないからだ。大学で『観光学』を専攻していた私は“新しい観光資源の創出”を自身の研究テーマとした。その研究の中で、私は世界的にも有名な外資ホテルの誘致や国内初のカジノ施設の建設などが、“新しい観光資源の創出”に一番の近道として捉えていた。
 しかし、私の考え方の転機となったのが『沖縄観光親善使節』で得た経験であった。県外の方々と接し、沖縄観光を客観的に見ることで新しい観光資源を発見するきっかけになればと思い志願し、選出して頂いた。そしてこのことが私の沖縄観光への見方を変えてくれたのだ。親善使節の研修が始まると、沖縄の歴史やロマンを感じる世界遺産や亜熱帯独特の自然、中国や日本・アメリカの影響を受けた食文化や受け継がれる色鮮やかな工芸や芸能といった伝統文化など、今までわかっているようで気付いていなかった、見過ごしていた沖縄の魅力を再認識した。私たちの身近に当たり前のように存在するものが、多くの観光客を魅了してやまないものであることを改めて知った。と同時に沖縄のかけがいのない魅力が開発によって失われてしまうのではないかと不安を抱いた。“沖縄ブーム”でホテルや施設の建設といった観光開発が次々に行われたが、昨今の経済危機の影響を受け、工事が凍結されたまま放置された現場は、変わり果てた観光地の景観と共に私たち県民の心を傷つけるものとなった。
 沖縄経済の発展や多様なリピーター層のニーズに応えるためにも観光開発の必要性を感じながらも、観光地としての本来の魅力を失わせないためにも沖縄の観光資源の保護や保全に取り組まなくてはならない。こうしたジレンマの中で沖縄観光は今後どうあるべきかを考えてみた。まず観光資源の保全への取り組みとしては、観光開発に対して一定のルールを定めてはどうだろうか。例えば沖縄でホテルの建設を計画する際に、「ホテル建設によって景観が損なわれないか」「建設によってどれほど森林伐採や赤土流出が起こるか」「近隣住民の同意を得られたか」など評価する。こうした動きは大分県の温泉地である由布院や八重山諸島の竹富島といった地域でも本来の魅力を守り続けるために条例や憲章の制定という形で行われている。また過剰な開発から沖縄の観光資源を守るのは私たち県民であるにも関わらず、多くの県民は以前の私を含め沖縄本来の魅力を認識していないのが現状である。県外だけでなく県内に向けたメディアなどを利用した沖縄の魅力の情報発信が必要である。それにより県民の観光資源に対する知識を深め、観光資源の保全への関心を高めるのである。
 もう一方で観光開発への取り組みにも県民の理解が一番に求められるのではないだろうか。地域住民の反対があれば開発など考えられないからだ。そこで観光開発への理解を高めるためには、現状を把握する必要があり、まず沖縄観光に対する県民の意識調査が必要である。県では沖縄を訪れた観光客に対してアンケートを行い、調査結果を公表しているが、肝心の沖縄県民に対する意識調査などは十分とは言えないのが現状である。こうした取り組みは観光先進国であるオーストラリアではすでに行われている。実際に県民に向けたアンケートを行い、そこで多くの人が観光開発を快く感じていない場合や抵抗感がある場合は、観光産業が沖縄県のリーディング産業であることや観光の経済効果や雇用創出といったメリットを知ってもらう普及活動が重要となってくる。
 こうした取り組みを通じて県民は沖縄の経済にとって観光がいかに重要な産業であるか認識し、県民が積極的に観光客を受け入れることが“おもてなしの心”に繋がるのではないだろうか。また自分の島の魅力を再確認することで地域ブランドの創出のきっかけとなり、自然環境や観光資源の保全に対する意識も高くなるだろう。県民が住んでいる地域に誇りを感じ、地域住民自らが積極的に観光客を受け入れ交流することで、地域経済も豊かになるだろう。また観光振興のメリットだけを知ってもらうような一方的な働きかけではなく、「住民参加」という視点を入れ、そのデメリットも十分に説明することで、住民にも偏りのない判断ができるだろう。その結果、県民が主体となって沖縄の魅力を守りつつ、沖縄観光の発展に自発的に取り組むのではないだろうか。
 『100年に一度の経済危機』『来沖観光客数の連続前年割れ』など現在の沖縄観光が抱える課題は決して簡単なものではないが、こうした今だからこそ沖縄観光を見つめ直す転機ではないだろうか。沖縄観光とは観光客や観光産業従事者だけのものではないことを県民は認識しなければならない。そして環境を破壊せず長期的な視点で開発を行う“持続可能な観光開発”には県民の参加が必須であり、今の沖縄観光の問題を解決できる重要な取り組みとなるだろう。

参考文献:沖縄県観光商工部観光企画課 観光統計資料・調査報告書、オーストラリア政府観光局 由布院「潤いある町づくり条例」、「竹富島憲章」